North, South, East and West ーあたまの中を旅しよう。

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真夏の夢のリヴィエラ⑥ルネサンス絵画の殿堂ウフィツィ

Wed, 10 Jul 2019
1 ルネサンス絵画の殿堂ウフィツィ
2 最後の街歩き
3 フィレンツェをあとに
  3.1 タクシーにご用心
  3.2 大どんでん返し


部屋の窓から見える、朝のドゥオモ。

今はツバメたちの時期みたい。たくさんの親鳥が啼きながら飛び回っている。


最終日に訪れるのは、アルノ川のほとりに立つウフィツィ美術館 Galleria degli Uffizi 。2週間前のオンライン予約時で、もう午前中は朝一番の枠しか残っていなかった。しかもチケットに書かれた来館時間はさらにその15分前。

仕方なく、今朝もホテルの朝食、少し前にとらせてもらった💦


フィレンツェに着いてから、単なる地図表示だけだったGoogle mapが、いつの間にか勝手に動くようになってたの。昨晩酔っ払いながらスムーズにレストランから帰れたのは、実はこれのおかげでもあるんだよね。どこかでFirenze Wi-Fiってやつに繋いでいたらしい(よく覚えてないけど)。

これに従い、アルノ川を目指して裏道をまっすぐ南下。15分くらいですぐウフィツィ。
ホントにどこでも徒歩で行けちゃう街だなぁ。

たらい回しされながらなんとか予約者ゲートへ
15分くらい待ってからようやく入場!
長い階段を上がり3階からスタート

ルネサンス絵画の殿堂ウフィツィ

収蔵作品が素晴らし過ぎて、ルネサンスや宗教画にとりわけ興味があるわけではないあたしでも一度は見るべし……とやって来たウフィツィだけど、いやはやここにある作品を十分に堪能するためだけにでも、キリスト教やヨーロッパの歴史を総復習したい!!と思わせるほどの、珠玉の名作揃いなのだった。

惚れ込んだものだけダイジェストで並べてみよっと。。。

ロレンツォ・モナコ
聖母戴冠の多翼祭壇画」1414  テンペラ


配置上、どうしても反射で見づらい部分があったのは残念だけど、何度見てもどこを見ても、味わい深く飽きることがない。

ジョヴァンニ・ダ・ミラノ
オンニサンティの多翼祭壇画」1363頃 テンペラ


この時代の宗教画を中心に使われた画法・テンペラの、しっとりした控えめな艶感と高貴で繊細な表現の美しさにため息もの。金箔との相乗効果も、他の画法ではとてもかなわない。

テンペラは伝統的には卵黄に顔料を溶いて描く画法で、数百年経っても劣化しにくく、色が鮮やかに保たれるのが特徴。ぼかしを作りにくいと言われるけれど、そんな欠点すら感じさせない。


ジョヴァンニ・ダ・ミラノのように、素晴らしい宗教画を残しても、その人なりについて十分な記録が残されていない画家もこの時代には多い。これは、画家個人の作品として世に出されたのではなく、修業の一つとして描かれているためなんだとか。

たとえ名前が残らなかったとしても、それでも生まれた作品が何百年間も人々の心を動かしていくなんて、代え難い価値のある仕事だと思うんだよね。

ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ
東方三博士の礼拝」1423 テンペラ


これもまた美しい…… ジェンティーレは、北方絵画の緻密さを取り入れた、”国際ゴシック様式”の代表的画家。テンペラならではの上品で艶やかな発色と細密な描写だけれど、物語のようなストーリー性も含ませた、ロマンティックな1枚。

マギーの礼拝」とも呼ばれ、このmagiは”マジック”の語源で、叡智を持った賢者を示すことば。ここでは占星術師たち(三博士)が星に導かれてイエスのもとにたどり着き、贈り物をする場面が描かれている。


3つの贈り物を表現した三博士は

メルキオール(黄金=王権、青年の賢者)
バルタザール(乳香=神性、壮年の賢者)
カスパール(没薬=受難、老人の賢者)


深く心に刻まれる名作たち。いきなり長く足を止められてしまった。この最初に出逢ったテンペラのエリアは、全部まわった後にもう一度眺めに戻った。

ボッティチェリ
春(プリマヴェーラ)」1477-78 テンペラ

中央は愛の女神ヴィーナス。
西風ゼフュロスはニンフのクロリスに恋しており、
その手に触れられたクロリスは、
花の女神フローラに変身する。
左の女性群は三美神、愛欲・純潔・愛。
キューピッドの目隠しは、”愛は気まぐれ”を表し、
使者マーキュリーは春の訪れを告げている。


ボッティチェリはフィレンツェに生まれ、ここに描かれた草花は、今もトスカーナ地方に見られる植物だそう。さまざまな寓意を神話に乗せて登場させながら、愛が生まれる軽やかな春を見事なバランスとハーモニーで完成させている。
さすが、ボッティチェリここにあり……といえる名画だわ。

ボッティチェリ
受胎告知」1489


2枚並ぶとボッティチェリの画風がはっきりするね。ふわふわ漂うような軽やかさ、やわらかくふっくらした体のライン。それと、音楽のような空気の流れが生まれている。

想像性豊かな彼は、こういった主題を通じて、内なる美的世界を開花させていたのかな。女性的な感性の持ち主だね。


同じ「受胎告知(Annunciation)」でも、ダ・ヴィンチのそれは、まったく異なる世界。

レオナルド・ダ・ヴィンチ
受胎告知」1472-1475頃 油彩、テンペラ


師のヴェロッキオと、弱冠二十歳ごろのダ・ヴィンチの合作とされる作品。時が止まった一瞬をとらえたような、静けさと張り詰めた緊張感がある。

時を止めたのは大天使ガブリエル。聖母マリアの動きを制止するような前傾姿勢に丁寧に揃えられた右手の2本指、上目づかいで小さく整った天使の唇が唱えることばは、呪文のようなパワーを秘めていたことだろう。

14歳でヴェロッキオの工房に入ったダヴィンチにとって、この絵はほぼデビュー作なのだけれど、すでに遠近法を用いた独自の背景や、自然科学への忠実な姿勢、絵に塗り込まれる謎めいた神秘性がよく表れている。

ダ・ヴィンチの担当は天使と背景部分。天使の羽は本来、現実の鳥の翼に似たものが描かれていて、のちに他の画家が修復した際に今のようなものに描き換えたのだそう。
確かにココだけすっごく違和感……するもんね。

ラファエロ
鶸(ひわ)の聖母」1505-1506 油彩


慈愛の眼差しで幼い洗礼者ヨハネとイエス・キリストを見つめる聖母マリア。眺めるほどに心温まる幸福感に満ちた情景ながら、唯一示唆的に描かれるのがヨハネからイエスに手渡されるひわ。

イエスがのちに十字架を背負ってゴルゴタの丘へ向かう途中、ひわが頭に舞い降りて、その額から棘を抜く。イエスの返り血を浴びたひわは、その瞬間から赤い斑点が出来たとされている。

その未来を予言するように、手渡される一羽のひわ。何かしらゾッとするものを感じずにはいられない、それでも前を向いて歩む人の幸福を願いたくなる一枚。そしてそんな暗示を含みながらも、この絵はとても明快で、素直に心に響く魅力に満ち溢れている。

ラファエロは37歳という短い生涯のうちに、多くの聖母像を制作した。ミケランジェロのように長命だったら、どれだけ多くの作品を後世に残したことだろう。


ミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、ラファエロと、三人三様のルネサンスの巨匠たち。傑作に触れるたびに、もっともっと彼らのことを知りたくなってしまう!

こちらはクラナッハ(ドイツ)のアダムとイヴ。タロットカードの「Ⅵ恋人」に使われていたりして、目にする機会も多い。

ルーカス・クラナッハ
アダムとイヴ」1528 油彩


昨日メディチ家礼拝堂で見たように、ミケランジェロの裸体彫刻は正直、女性像でも男性型なのよ。骨格や筋肉は男性とさほど質が変わらず、その上に無理矢理乳房や脂肪を乗せている感じが否めない(天才相手に僭越だけど、医学的にはそこはすごく気になる~)。

でも本来、人間の基本形は女性で、男性ホルモンがはたらいた場合に形態が男性型に変化する。クラナッハは、その男女のホルモンによる形態の違いを、正確に把握し見事に描き分けているのが凄い!

彼はこの他にも10点以上のアダムとイヴを残している。内外ともに異質な男女を対比しながら一つ(一対)の絵に納めることで、 補完し合う存在が手を取り合う、”完全美”を追求し続けたのかもしれない。

失われた半身を求めて、人は恋をする。タロットカードⅥの象意は『調和、正しい選択』だしね。

ロッソ・フィオレンティーノ
奏楽天使(リュートを弾く天使)」1520頃 油彩


あーん大好きな絵のひとつ、「リュートを弾く天使」がこんなところにー!

すべてが愛くるしいのよね……クルクルした巻き毛に2色の羽、ふっくらとした手や頬を丸みのあるリュートに押し付け、音色に耳を傾けるそのしぐさ。もともとは大きな祭壇画の一部だったらしい。

アニョロ・ブロンズィーノ
コジモ1世の肖像」1543 油彩


この方タイプです(笑)
一目見て分かる聡明さに、意志力・実行力を備え、有能で勇敢な人物という感じね。絵の部分が綺麗に撮れなかったので、画像データを実際の額縁にはめ込んでみた!(額縁に入った雰囲気がよかったんで)

メディチ家傍系のコジモ1世は、初代トスカーナ大公。父君は人気の英雄「黒隊長」で、コジモ1世は若くしてフィレンツェ公、のちにトスカーナ大公となる。中央集権を整え、現在世界遺産として残るフィレンツェの都市計画を推進した。

また、ヴァザーリの回廊(ヴェッキオ宮殿~ウフィツィ美術館~ピッティ宮殿を結ぶ長い廊下で、2021年公開再開予定らしい)を造った宮廷画家ヴァザーリや、大公一家の肖像を多く残したブロンズィーノらルネッサンス期の芸術家を重用し、ここウフィツィ美術館を建てたのもコジモ1世だ。当時、フィレンツェの行政を集めた建物をもとにして作られたため、ウフィツィ(ufficioは伊語のオフィスの意)の名前が付けられた。

彼の業績には、スペインから嫁いだ美しく聡明なエレオノーラ妃の内助の功も大きく、彼女は11人の子供を産み、夫を立てつつ政治手腕も振るった。凄いね、この二人あってこそ、フィレンツェ・ルネサンスの大きな潮流が育成されたのかも。

☑フィレンツェカード
2-3日の滞在でいくつも美術館・博物館に足を運ぶ場合は、ほとんどすべての美術館や宮殿(76施設)に並ばずに各1回入場できる、フィレンツェカードがおすすめ。72時間有効で85€。
フィレンツェカードプラスは、+7€で公共交通機関もフリーに。

ただし混雑する施設(ウフィツィ、アカデミアなど)や日時によっては、予約が必要になるなど例外があるので、必ず最新情報を調べて検討してみてね。オンラインサイトはこちら
(2019年7月)

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