アントニ・ガウディは職人の家に生まれた。兄弟は若くして亡くなり、ガウディ自身もリウマチを患う。そのため健康管理に気を遣い、自然食品を利用した独自の治療法も行っていたという。
活発に動き回ることが難しいという身体的ハンディキャップは、身近に目にする自然の造形をつぶさに観察する習慣を育て、これがのちのガウディ建築のデザイン基礎となっただろうことは想像に難くない。
朝早く、生誕のファサードからサグラダ・ファミリアに入場する。白い柱にステンドグラスの色を映すファンタジックな空間に、えも言われぬ不思議な気持ちになる。エレベータで上まで上がり、外の景色や塔のつくりを眺めながら、螺旋階段を少しずつ下ってゆく。表面に経年変化や汚れを生じた石材は、建造にかかった長い時の流れを感じさせる。
地階には充実のミュージアム。懸垂実験や貴重なガウディ直筆の資料などが保存されており、CGや動く模型を使った展示は興味深く、きっと丸一日眺めてても飽きないことだろう。
自然がつくる形は、理に適っている。
重力を感じ、風を受けてしなり、それはそうでなくてはならない必然性に基づいて生まれているからだ。
白く長く、セロリを彷彿させるバシリカの柱は、基部の8角が先にゆくほど角を増やしていく。結果として、先にゆくほど細くなる枝の強度増幅にも寄与する。「自然の中に最高の形がある」と言ったガウディの言葉が思い出される。
”天に落下する鐘塔”
そう表現されるサグラダ・ファミリア。
コロニア・グエルで10年をかけて行われた実験が、このサグラダにも生かされている。
ガウディは計算に基づいた詳しい設計図を残していないが、その建造物は現代の構造計算によってもほぼ理論的に正しく、それどころか他の建築と比較しても、さらに精度が高いのだそうだ。
彼はそこへと、自然のつぶさな観察と実験だけで辿り着いた。方程式を学び扱うアカデミーには一度も入らず、自分の手で模型を作り、材料を検討し、職人たちに直に伝えるという方式をとっていた。