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  1. ART

アントニ・ガウディ

すべては、自然が書いた偉大な書物を学ぶことからだ。
人間が造る物は、既にその偉大な書物の中にある。
美しい形は構造的に安定しているのだ。


Antoni Gaudi(1852-1926)


「サグラダ・ファミリア」1883-

前任者から教会の設計を引継ぎ、
モンセラットの形からガウディが構想した
寄付で建設が続けられている贖罪教会。


異形、とも評されるが
鮮やかな青空のバルセロナでは、
これ以上ないくらい自然な調和を見せている。

各所に自然界の形態が応用されており、
そうして作られた数々の彼の建造物は、
現代の構造計算でも、
かなり正確なことが分かっている。

完成まで300年かかるといわれていたが、
コンピュータ技術の導入と観光収入の増加で
建設は急ピッチで進み、
現在はガウディ没後100年(2026年)
の完成を目指している。


喧噪のバルセロナ市街から離れ、無人の最寄駅からてくてくのどかな並木道を歩いていくと、そこにはひっそりとコロニア・グエルが佇んでいる。ここはグエル伯が、繊維工場を田舎に移転し作った労働者の居住区で、その中の教会の地下聖堂部分が、ガウディ未完の傑作とされるクリプタ(地下聖堂)である。

10年にも及ぶ懸垂実験ののち着工された教会は、ほとんどガウディと数人の職人による手作業で造られ、そのため時間がかかり地上部分は手を付けないままに終わり、地下部分のみが完成された。


「コロニア・グエルの地下聖堂」1898-1916

斜めに立つ柱と独特のカーブを描く天井。
同じくガウディがデザインした椅子も、
有機物のカーブを応用し、
見た目でも実用面でも安定感を与えている。


特徴的なカラフルなモザイクタイルの入り口をくぐると、母の胎内のような、絶対の安定感を与えてくれる空間に呑み込まれる。天井は何か大きな生物の、体を支える骨格と脚にも思えるカーブで覆われている。複雑ながら美を感じさせる造形は自然界でもよく見られるが、そんな見慣れたはずのカーブが建築の構造として用いられるのは、当時としては異例だった。

着工まで10年という長い期間を待ち続けた懐の広いパトロンのグエル伯。彼の後押しがなかったら、ガウディもこんなに後世に残る作品を造れなかったかもしれない。歴史に残る傑作は、得てしてそのように生まれるものかもしれない。

市内に戻り、目抜きのグラシア通りを南下してゆく。両側にはブランドショップやモデルニスモ建築が立ち並び、カサ・ミラ(ラ・ペドレラ)を眺めたあとは、ガウディの独創性が炸裂するカサ・バトリョ。この建物は個人の所有で、私財で管理がまかなわれている。


「カサ・バトリョ」1904-06

キラキラと反射する海の躍動する波しぶきと、
重なる髑髏をモチーフとしたのでは
と言われる正面ファサード。

海路での貿易で財を成したオーナーの
名刺代わりともいえる邸宅を
ガウディが改築したもの。

細部にわたる独創的な芸術性に加え、
通気や採光性に配慮した実用性も両立している。


140年前から保存された歴史を感じる邸内は、エントランスから煙突の先まで、縦横無尽にガウディの目や手や心を感じる細工で、みっちりと埋め尽くされている。オーディオガイドを聞いていると、そんなガウディの傑作を愛する、人々の愛情がつぶさに伝わってくる。

いつまでも飽きのこない工夫と創造性。複雑な色と形は、天気や時刻によって、まったく別の顔を見せてくれるのもまた魅力である。バルセロナ市内には、こんなガウディの作品があちこちに点在し、人々を楽しませている。

使用人階の入口は、サンタテレサ学院廊下(ガウディ作)を模したパラボラアーチの連続による光のカーテン。通り抜けるだけで体内を漱がれるような感覚を味わう。

邸内には、機能性と美を同時に実現する工夫が多く見られる。パワフルな独創性だけでなく、こんな静謐な空間が同居するのも、やはりガウディならでは。

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