そろそろここらも三寒四温。
春らしい空気の緩みとともに、道なりの桜の枝が空を背景に、ほんのり色を帯びているのに気付く。
桜を使ってさくら色の染め物をするには、その黒い樹皮を使うのだそうだ。
小さい頃、あたしは教科書でその話を知った。
皆に愛でられる花の色は、
途切れることなくおしなべて樹木脈管にかよっている。
この季節、さくら色の枝を見つけるたびに、
あたしはこの話を思い出す。
桜の花言葉は「精神美」。
根から幹から全身全霊をかけてこの色に染まってゆく。
それはこの樹の中から放たれる、生命そのものだ。
冬の間も休むことなく脈々と紡がれ、春には淡く紅を帯びた見事な花を次々に開かせる。
天災に見舞われようと、人の営みがどうであろうと、
ひとつひとつは小さいけれど、揺るぎなく花弁を重ね合い、有無を言わさぬ圧倒的な美をもって。
そんな花がいっぱいに咲き誇る季節に生まれたことを、あたしは毎年のようにしあわせに思う。
生きることを後押しされている気持ちになる。
今年もまた、確かに自分たれと。